三日月が囁く時





窓をたたく音
もっとうるさくて良いのに

針が動く音
もっと静かで良いのに

気管を通る音
もっとゆっくりで良いのに

そうすれば何もかも薄れていくのに


パソコンだけがついた部屋
一人横になってみる景色
地面から生えた半面は
血化粧がよく似合う

そんなに綺麗に見えるのは
此処から救いに来た天使だからですか
黒と赤で出来た世界は
きっととても温かいのでしょう
僕にそこへ行く資格はありますか



カーテンの隙間
呼んでないのに明りが覗く

唇の隙間
静かな起動音が漏れる

焦点の隙間
影が隅に追いやられていく

もう雨は止んでしまったらしい


巡り始めた人差し指
届いたはずの額には
冷気一つ感じられない
薄く上がった口角が掠れゆく

憐れみですか嘲りですか
感受した虚構で内臓を満たして
逃げ出した心に足掛けを付ける
好きにさせてはくれないらしい
また暗くなれば笑いに来るのですか



ひもを付けられて
足枷を付けられて
自由に見えるだけの風船
自由に見えるだけの猫
此処から離れようとする僕を
繋ぎ止めるために
あなたは綺麗な顔で嘲りに来るのですか



今日は天使に見えたあなたは

明日死神に見えるのかもしれない


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